
私たちが「革の鮮度」にこだわる理由は、単に質が良いからだけではありません。 実際に(有)橋本グローバルスワインさんの農場を訪ね、橋本さんが豚たちに向き合う真剣な眼差し、そして力強く生きる黒豚たちの姿を目の当たりにした時、私の心に一つの強い感情が湧き上がりました。
「この命を、決して無駄にしてはいけない。最高の状態で使い切ることこそが、私たちの責任だ」
前職のJA全農ミートフーズ時代から数多くの現場を見てきましたが、自分のブランドを背負い、一人の職人として訪ねたその日は、景色が全く違って見えました。今回は、農場から工房へ。最短距離で繋がれたバトンの「第一走者」である農場でのエピソードと、そこで交わした大切な約束についてお届けします。
■ 全農での10年が教えてくれた、私だけの「正解」
私はenrioを立ち上げる前、JA全農ミートフーズという会社で約10年間勤務していました。毎日、お肉という「命」が流通する現場の最前線に身を置き、食肉業界人として歩んできました。
その経験があったからこそ、家業の有限会社河内を継いで自分のブランドを作ろうと考えた時、世の中に溢れる「イタリアンレザー」や「有名ブランドの革」を使うことに、どうしても違和感を拭えなかったのです。
「いい革を使って、国内で縫製する。それは確かに素晴らしい。でも、それは私にしかできないことなのだろうか?」
自問自答の末に辿り着いたのは、食肉業界で歩んできた私のキャリアと、家業の技術を掛け合わせることでした。

■実際に農場へ訪れて。そこから始まった、常識外れの挑戦

「彩の国黒豚の皮を使ったブランドをやりたいです」
前職の後輩に相談し、全農埼玉県本部から紹介してもらったのが(有)橋本グローバルスワインさんでした。通常、個人の小さな工房が農家さんと直接繋がることは、業界の常識では考えにくいことです。
それでも私は、どうしても現場へ行きたかった。 「どこで、誰が育てたかわからない革」を安く仕入れるのではなく、その命が育まれた場所を知り、育てた人の想いを受け取った上で、最後の一針まで責任を持ちたかったのです。
■農場で突きつけられた、命の重みと「職人の責任」
実際に農場を訪ねた日。 整然と並ぶ飼料タンクを抜け、橋本さんに案内されて豚舎へ向かいました。
そこで見たのは、ゆったりとしたスペースで暮らす豚たちと、橋本さんたちの豚への深い愛情でした。真っ直ぐな瞳でこちらを見つめる黒豚たち。その姿を見た瞬間、「鮮度が良ければ質が上がる」という理屈を超えた、もっと強い感情が湧き上がってきました。
「この命を、決して無駄にしてはいけない。最高の状態で使い切ることこそが、私たちの責任だ」
それは、効率や利益を優先するビジネスではなく、命のバトンを繋ぐ「誠実なモノづくり」をしようと心に誓った瞬間でした。

■バトンは次なる場所へ
enrioの豚革が持つ、しっとりとした質感。 それは、農場、なめし工場、そして工房。すべての工程が「最短距離」で結ばれ、関わる全員の顔が見えるからこそ実現できたものです。
農場で受け取ったこの「命のバトン」は、次にどこへ向かうのか。 次回は、農場を出た命が最初に向かう場所。写真には残せなかった、けれどenrioにとって最も大切な『命の交差点』についてお話しします


