
「サステナブル(持続可能)」や「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」という言葉が当たり前になった現代。アパレル業界でも環境に配慮した新素材が次々と生まれています。
しかし、私たちが日常で使っている「革(レザー)」こそが、実は人類の歴史上、最も古くから存在するアップサイクル(副産物の再利用)であることをご存知でしょうか。
人間が狩猟を始めた数万年前から、革は「命を無駄にせず使い切るための知恵」として暮らしに寄り添ってきました。
今回は、革と人類の深い歴史を紐解きながら、現代の私たちが改めて見つめ直すべき「本質的なサステナブル」についてお話しします。
革の始まりは「肉を食べた後の副産物」から

人類と革の歴史は、今から約200万年以上前、旧石器時代まで遡ります。
生きるために動物を狩り、そのお肉をいただく。そして手元に残った「皮」を、寒さを凌ぐ衣類や靴、雨風を防ぐ住居の材料として利用したのがすべての始まりです。
しかし、生の皮はそのまま放置するとすぐに腐敗し、乾燥するとカチコチに固くなって使えなくなってしまいます。
そこで古代の人々は、試行錯誤の末に「皮」を腐らないとしなやかな「革」へと変える技術=鞣(なめ)しを生み出しました。
人類が一番最初に編み出した鞣し(なめし)の方法は、なんと「自分の口で噛むこと(噛み鞣し)」でした。
道具も化学薬品もない時代、極寒の地で暮らす人々は、捕獲した動物の硬い皮を何時間も口で噛み続けていました。人間の唾液に含まれる酵素が皮の組織を和らげ、口の中の脂分が染み込むことで、着られるほど柔らかい「革」へと生まれ変わっていたのです。
薬品も工場もない時代から、「どうにかしてこの命の副産物を柔らかくし、暮らしの道具として使いたい」という人間の強い執念と知恵があったからこそ、革の歴史は始まりました。
その後様々な方法で鞣していたとされています。
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薫煙(くんえん)鞣し:煙で燻(いぶ)して防腐・防水性を高める
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明礬(みょうばん)鞣し:鉱物を使って皮を安定させる
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植物タンニン鞣し:草木の渋(タンニン)を活用して革を強化する
「いただいた命を決して無駄に捨てず、生活の道具として長く活かしきる」。これこそが、人類が編み出した最古のリサイクルであり、サステナブルの原点でした。
日本の歴史と革:縄文時代から受け継がれる「命の使い切り」
日本においても、革の歴史は非常に古く、縄文時代の遺跡からは動物の皮を加工していたとされる石器(掻器:そうき)が出土しています。
当時の人々は、シカやイノシシのお肉を貴重な栄養源としていただき、その皮を加工して衣服や紐、防寒具として徹底的に活用していました。
飛鳥・平安〜武士の時代へ
飛鳥時代や奈良時代になると、大陸から高度な鞣し技術が伝わり、染革(そめがわ)や漆革(うるしがわ)といった非常に美麗で耐久性の高い革製品が作られるようになります。
武士の時代(鎌倉・戦国時代)には、甲冑(鎧兜)や馬具、弓道の道具として革は欠かせない武具素材となりました。刀の柄を巻く革や、軽くて強固な胴甲冑など、「命を守る道具」として極限まで機能性と耐久性が高められていったのです。
時が流れても変わらないのは、「常に食肉や暮らしの副産物として生まれた皮を、職人の手で高付加価値な道具へ仕立て直してきた」という歴史的背景です。
現代における「命の副産物」と「放置するリスク」

歴史が証明している通り、革を作るために育てられている家畜は世界中どこを探しても存在しません。革は100%「食肉産業の副産物」です。
私たちが日常でお肉を食べる限り、原皮(加工前の皮)は毎日必ず生まれ続けます。
もし仮に、現代の私たちが「革は使わない」と決めて、この皮をすべて捨ててしまったらどうなるでしょうか。
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莫大な廃棄コストとエネルギーの無駄
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腐敗による大量のメタンガス(温室効果ガス)の発生
皮を捨てること自体が、実は深刻な環境負荷と二次被害を引き起こします。
生まれた原皮を捨てることなく、タンナー(鞣し業者)と職人の技術によって、5年、10年、20年と手入れしながら使える頑丈な道具に変える。これ以上にシンプルで、理にかなった「循環」は他にありません。
使い捨ての時代だからこそ、「育てる革」の価値を

数年で劣化してゴミになってしまうプラスチック製品や化学繊維があふれる現代だからこそ、時代を超えて受け継がれてきた「革」の持つ価値が際立ちます。
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手入れをすれば数十年単位で使い続けられる耐久性
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使うほどに手に馴染み、味わいが増す経年変化(エイジング)
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役目を終えた後は、自然環境へ還りやすい天然素材
「安く作って、すぐ捨てる」消費スタイルから、「良いものを、手入れしながら長く大切に育てる」スタイルへ。
数千年前の先人たちが当たり前にやっていた「命を大切に使い切る」という姿勢の中にこそ、私たちが目指すべきサステナブルの答えがあります。
歴史を知り、誠実な選択を
「サステナブル」という言葉が一人歩きし、表面的なイメージやトレンドだけで素材が語られることも増えました。
しかし、革の歴史を振り返れば、そこには数千年にわたって紡がれてきた「生命への感謝」と「職人の知恵」が凝縮されていることが分かります。
トレンドの言葉だけに惑わされるのではなく、素材の背景にある歴史や事実を知ること。
私たちはこれからも、足元にある命の恵みを大切に受け取り、誠実なものづくりを通して次の世代へ繋いでいきたいと考えています。


