
農場、屠畜場、なめし工場。 多くのプロたちが繋いできた「命のバトン」のしんがりを務めるのが、私たちの工房です。
実は、このバトンの受け取り方は、普通のブランドとは少し違います。 私自身がハンドルを握る車で、なめし工場(計量屋)まで直接引き取りに行くのです。
■ 軽バンに積んだ「100枚の勝負」
積み込むのは、およそ100枚の革。 一般的なブランドは、革問屋から必要な分だけ(1枚から)買うのが普通です。しかし、enrioは違います。
なめし工場の巨大なドラム(タイコ)を動かせる最小単位、「100枚」というロットを丸ごと自社で発注し、そのすべてを背負います。
正直に言えば、私たちのような小さな会社にとって、一度に100枚の革を買い取るのは簡単なことではありません。車に積み込む時、その重みで軽バンのサスペンションがグッと沈み込むのを感じるたび、「やるしかない」と身が引き締まる思いがします。
バックミラー越しに積まれた100枚の「命の重み」を眺めながら、埼玉県内の道を工房へと走らせる。この泥臭い「産地直送」こそが、enrioの瑞々しさの正体です。
■ 命の跡(キズ)を、ブランドの「誇り」に変える
工房に到着し、革を広げる瞬間。 そこには、一頭一頭の生きていた証である小さなキズやムラが刻まれています。
100枚すべてが、私たちの責任。 効率を優先して綺麗な部分だけを切り取るのではなく、その子の個性をどうデザインに活かすか。 「このキズは、この子が元気に走り回っていた証拠だ」 裁断する一瞬の判断に、職人としての、そして一人の人間としての敬意を込めています。

■ 0.1ミリの厚みに宿る、98年の執念
私たちの母体である「有限会社河内」は、1927年の創業からまもなく98年を迎えます。 今、国産の芯材や糊の供給不安など、ものづくりの現場は厳しい状況にあります。
けれど、自ら革100枚の覚悟を背負い、汗をかいて運んできたこの革を前にして、妥協なんてできるはずがありません。 0.1ミリ単位で厚みを調整する「漉き(すき)」の工程。見えない場所にこそ、98年の意地を詰め込んでいます。

■ 最後の刻印、そしてあなたへ
組み立て、縫製し、最後に「enrio」のロゴを刻印する。 その瞬間、素材は「道具」へと生まれ変わり、バトンリレーは一つのゴールを迎えます。
昨日まで開催していた「CHOOSEBASE SHIBUYA」でのPOPUP。 店頭で皆さまが製品を手に取り、「この革、すごく柔らかいですね!」と驚いてくださる姿。その笑顔の向こう側には、あの軽バンの揺れも、100枚の革を積む時の手の痛みも、すべてが繋がっています。

■ 循環する未来へ
「命のバトン」は、これで終わりではありません。 製品を手にとってくださった皆さまが、これから何年も使い込んでくださることで、この革はさらに味わい深く育っていきます。
使い手である皆さまが、この物語の「最終走者」です。
これからも、命の熱をそのままに、誠実なものづくりを続けていきます。 enrioの挑戦は、まだ始まったばかりです。


