製作編:第1回 「命のバトン」を切り出す。一太刀に込める、100枚の革と98年の覚悟

製作編:第1回 「命のバトン」を切り出す。一太刀に込める、100枚の革と98年の覚悟

【工房編】最後の一針に込める、98年の意地と「100枚の覚悟」 Reading 製作編:第1回 「命のバトン」を切り出す。一太刀に込める、100枚の革と98年の覚悟 1 minute Next 【製作編】第2回:0.1ミリに宿る、強さと優しさ。「漉き」の美学

渋谷でのPOPUPという挑戦が終わり、工房には静寂が戻りました。 あの5日間で得た一番の収穫は、「良いものを作る」だけでは届かない、という痛烈な事実でした。

だからこそ、この「製作編」では、enrioが、そして私が、どれほど素材に執着し、一針に命を懸けているか、その泥臭いプロセスを隠さずにお伝えしようと思います。

その第1回は、すべての始まり、「裁断」です。

1. 100枚の個性と対話する

裁断台に広げたのは、埼玉県から直接繋いだ「彩の国黒豚」のピッグスキン。 私が軽バンで運んできた、あの「100枚の覚悟」の内の、大切な一枚です。

まず行うのは、革の「検品」です。 でも、私はこれを「対話」だと思っています。

牛革と違い、豚革(特にピッグスキン)は、生きていた時の傷が多いです。そして毛穴の痕がはっきりと残っています。革のアップを見ていただくと、その瑞々しい質感が伝わるでしょうか。

真っ白な無地の布とは違います。一枚一枚、場所によって厚みも、柔らかさも、傷の入り方も全部違う。

「この傷は、この子の生きた証だから、バッグの底に活かそう」 「ここは柔らかすぎて強度が足りないから、製品には使えない」

手のひらで表面を撫で、指先で厚みを感じながら、どこを、どう切り出すか、この一枚の革とじっくり話し合います。これは、98年続く家業で、父や祖父の背中を見て学んだ、最も地味で、最も重要な工程です。

2. 「抜き型」が刻む、均一な品質

私たちが裁断する場合は「抜き型(クリッカー)」を使います。

この写真はenrioの特徴的なデザインを切り出すための専用の抜き型です。 これを革の上に配置し、数百キロの圧力をかけて一気に抜き取ります。

結び:次は「厚みを整える」漉き(すき)へ

裁断が終わると、大きな一枚の革は、バラバラのパーツへと生まれ変わります。

一太刀一太刀、命の重みを感じながら切り出したパーツたち。 でも、これではまだ製品にはなりません。 豚革は、場所によって厚みがバラバラです。また、パーツごとに最適な厚みがあります。それらを調整する工程「漉き」がございます。

次回は、このパーツたちを、0.1ミリ単位で理想の厚さに整える「漉き(すき)」の工程についてお話しします。