【現場のリアル】小さな革ブランドがぶつかった「100枚の壁」と、新たな挑戦

【現場のリアル】小さな革ブランドがぶつかった「100枚の壁」と、新たな挑戦

 目に見えない「100枚」というそり立つ壁

ブランドを運営していく中で、私たちがずっと頭を悩ませてきた課題があります。 それが、革の製造現場における「1色100枚のロット壁」です。

私たちが展開しているプロダクトでは、埼玉県産の銘柄豚である「彩の国黒豚」の皮を仕入れ、地産の命の恵みを無駄なく活かした革製品づくりを行っています。

しかし、食肉の副産物である皮を「革」へと仕立て直す(鞣す)工程において、通常は1回あたり「100枚単位」での発注が業界の基本的なベースとなります。

大きなメーカーであれば100枚の革もすぐに製品化できますが、私たちのような小さなブランドにとって、1色100枚という在庫リスクと資金の重みはあまりにも巨大です。

「置く場所もない、お金もない。でも新しいカラーを作ってお客さまに届けたい」

この壁を前に、私たちは何度も次に踏み出す足を止められそうになっていました。

タンナーさんの「物理的な限界」と、諦めきれない想い

「なんとか30枚という小ロットで、新しい色を試させていただけないだろうか」

意を決して、これまで彩の国黒豚の革を素晴らしいクオリティで鞣してくださっていたタンナーさんに相談に伺いました。

しかし、職人さんから返ってきたのは、申し訳なさそうな一言でした。

「ごめん、うちの大型設備(タイコ)だと、30枚じゃ革が少なすぎて中で空回りしてしまって、綺麗に鞣せないんだ」

断られた理由は、職人さんの腕や感情の問題ではなく、工場にある大型設備の物理的な限界でした。100枚という大きなロットだからこそ、均一で高品質な革が仕上がる構造になっていたのです。

職人さんの職人魂と設備の特性を理解しているからこそ、無理は言えない。けれど、ここで立ち止まってしまえば「命の恵みを余すことなく使い切る」という私たちの挑戦も途切れてしまう。大きな葛藤が生まれました。

行動を起こすことで見つけた、新たな選択肢

「ここで諦めるわけにはいかない」

私たちは原皮商の方々や全農さんへ何度も相談を重ね、全国のネットワークをたどりました。そしてついに、小ロットでの鞣しや特殊なカラー調整を得意とする、新たなタンナーさんとのご縁をいただくことができたのです。

もちろん、これまで支えてくださった職人さんへの感謝と敬意は消えません。ブランドが大きくなったらまたお願いしたいと思っています。

ビジネスとしてブランドを存続させ、成長させるための柔軟な選択でした。

完璧さよりも「背景にあるストーリー」を届けたい

アパレルやファッションの世界では、多くの場合「傷ひとつなく、均一で、いつでも同じ色が手に入る大量生産品」が評価されます。

しかし、革は元々生きていた動物の命そのものであり、ものづくりの現場にはこうした職人さんの設備の都合や、小さなブランドの泥臭い試行錯誤が必ず存在します。

私たちは、単に綺麗に整った表面上のプロダクトだけを売りたいわけではありません。

素材がどこから来て、どんな壁を乗り越えてお手元に届いたのか。その「背景にある物語」ごと愛していただけるような、誠実なものづくりをこれからも続けていきます。

おわりに

埼玉県産の彩の国黒豚という命の巡りを、新しいカラーとともに、さらに多くの皆様へ届けるための新しい一歩が始まります。

小さなブランドの不器用な挑戦ではありますが、1枚の革に込められた現場の想いを感じ取っていただけたら嬉しいです。これからの新しいカラー展開も、ぜひ楽しみにお待ちください!